寒空の季節/偏屈な少年

お題:寒いうんこ 制限時間:15分


「いや、すごく寒いね」と、隣を歩く少女は白い息を吐きながら言った。もう冬もすっかり目の前に迫ってきている。少年もまたひとつ息を吐いた。冬は苦手だ。そう言うと彼女は首を傾げた。
「どうして?」
「いや、皆がさむい、って言うだろう」
「そりゃまあ、寒いからねえ」
「俺はさむいという言葉が苦手だ」
 彼は憮然としてそう言うのである。二人は丁度公園に辿りついた。そこそこの規模のある公園で、人がまばらに歩いている。彼女は自動販売機でココアを買うかミルクティーを買うか悩んだ挙句、ボタンを同時押しするという暴挙に出た。
「なんで? 夏の方が好き?」
 ガコン、と音を立てて落ちてきた缶を手に取りつつ、彼女は少年を見上げた。
「いや、夏が別段好きというわけでもない。さむいという言葉が苦手なんだ」
「どういうこと?」
 少年はポケットから財布を取り出した。
「いや、つまらんことをな、サムい、と言うだろう」
「それが嫌なの?」
「ああ。禁忌の言葉だと思っている」
 彼女はプッと吹きだして、「変なの」と笑った。それを尻目に見つつ少年は缶コーヒーを買っている。
「面白いことは素晴らしいことだ」
 彼女はまた吹きだして、「そういうのが面白いと思うけどね」と言う。それから急に大真面目な顔をした。
「それ、私も言わない方がいい?」
 彼はコーヒーを開けず手を温めていたが、そう言われてじっと彼女の顔を見つめた。
「いや、別に。恐らく、腹が減った、と言うのと同じくらい、無意識に言う言葉なんだろう。お前の場合」
「そうだねー。規制されると困っちゃうかもしれないね」
「構わないよ」彼は一度深く息を吐いた。そうして見上げた空もまた白くなっている。
「そっか、よかった」
 そうして二人は空いたベンチへと向かう。寒いからだろう、少し前よりもベンチを利用する人は少なくなっていた。まだ落葉が全て終わったわけではないのだが、だんだんと景色は殺風景になりはじめていた。そうして人々がどんどん重装備になっていく。目の前にいる彼女もまた――彼女は寒いのが特別苦手なのだが――はやくも手袋とマフラーを装着しているのである。ぶらぶらと空いた片手を振った。
 ベンチに腰掛けて、二人は同時にはぁ、と息をつく。
「しかし今年の冬はなかなか辛いな。去年よりも辛い」
「寒いね。うん。今年は本当に寒いよ」
 彼はちらりと隣に座った少女を見た。
「何?」
「ああいや、意図したわけではないと思っている。なんでもない」
 そうしてにやりと笑った後、「この程度で笑っているとは、俺もまだまだだな」と独りごちていた。



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