妄想癖

お題:どこかの冤罪 制限時間:15分


 始まりはほんの小さなことで、僕はその時全然気がつかなかった。物語が進展しはじめたことに。

 彼女とは昔から仲がよかった。所謂、幼なじみ、というやつだ。幼稚園から始まって、小、中と一緒だったけれど、高校に入ったとき別々になった。頭のよい子だったから、少し遠くの都立まで通うことになったのだ。
 それからは、年賀状を送ったきりだ。僕は彼女のメールアドレスだって知らない。一応家の電話番号くらいなら知っているけれど、それだって小学生の時の連絡網が未だに家に残っているからだ。最近は個人情報のナントカで、連絡網はメールで回るようになってしまった。確かに確実だろうけれど、なんとなく寂しい。
 それはそうとして、僕は成長しただろう彼女のことはよく知らない。女の子は小学生高学年あたりから急激に成長して、高校になったくらいには大体出来上がっているけれど、男子ってやつは高校に入ってからももう少し成長する――なんていうのが定説らしいから、それにのっとって言えば、きっと彼女は大して変わっていないんじゃないか。そんな程度の想像しかできない。家はわりと近い筈なのだが、彼女は電車通学で、僕は自転車通学だから、時間が大きくズレてしまう。だから偶然道で出くわす、なんていうこともなかった。

 ここまでが僕の言い訳。

 ある日のこと。
 中学の時、彼女と仲の良かった女の子がいる。僕と同じ地元の高校に進学した。僕はあまり話さないのだけれど、どうやらその子は彼女と未だに親交があったらしい。そうとわかったのもその日のことだ。全部あの日から変わってしまった。
 その女の子がある日僕に、あろうことか、殆ど会話も交わしたことのない僕に、告白してきた。
 僕は――まあ、日陰者の人生だったので。恋人なんていうのとは全く無縁と思って過ごしてきたから、その時少し舞いあがってしまった。女の子が僕を特別な存在として見てくれてる。それがなんだか嬉しくて、それに答えたくて。
 それが全ての始まり。
 その数日後から僕の携帯電話には大量の不在着信が入るようになる。電話番号は毎回同じ人。恋人になった女の子じゃない。誰のものかはわかってる。初めて電話が入った時、恐る恐る取ったから。
 二年ぶりに聞く彼女の声は、なるほど確かに変わっていない。だけど昔の、――僕が初めて恋をした、あの明るい女の子だとは思えない。そんな、雰囲気。

「どうして二股なんてかけるの?」

 そして歯車が急速に回りだす。



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